幼児の健全な心身



この世に生を受けた子どもは、どんな手も寄せつけない厳然とした個としての育ちの核をもって、他の誰とも違う一人の人間として生まれてきます。しかし一方、多くの手が添えられること無しにその子らしい固有の特性として生き られることは不可能です。人間としての発育発達の道筋を充分に呼吸することを通して、子どもは自分らしい存在を創りあげていくのです。
 乳幼児期の育ちの原点は「からだ存在」が温かく心地よいこと、すなわち「在ること」に安住できることといえます。おおらかに食べ、眠り、排泄し、そして優しい抱っこ、そのような快さの中で人間の感情発達にかかわる大脳の 古い皮質は伸びやかな活動が可能となり、身近な人、物、事柄に対する興味や 豊かな感受性が育っていきます。乳幼児期の精神・身体的発育は人生のどの時 期よりも速度が速く、怒りや恐れ、嫉妬や喜びそして得意さなどの感情は2歳 頃にはほぼ大人と同じほどに分化・発達するといわれます。それらの感情体験 は古い皮質にしっかりと記憶され、その後の体験を支えます。したがって逆に 「在ること」が冷遇されたり脅かされるとき、この脳の中心部は萎縮し発達は抑制されてしまうのです。
 やがて成長にともない、学校教育などの知的・文化的活動は、主として大脳 の新しい皮質で行われますが、それは幼児期における、古い皮質の充分な活動 を土台にしてはじめてその意味も価値も広がり深まっていくのです。
 子どもが健康であることは、世界保健機構(WHO)の定義を待つまでもな く、単に病弱でないということにとどまらず、からだ・心・さまざまな環境へ の興味関心、活動性に生きるエネルギーが充ちていることなのです。



 自分の手足と戯れる乳児、食べるわけでもない土まんじゅう作りに夢中になって共同作業をする幼児たち、チームのためにすり傷もがまんしてサッカーをがんばる年長児、身体感覚、知的思考、優しさ、忍耐など、子どもたちは遊びを通して自分に挑戦し、他者存在の意味を認識し、精一杯のアイデアで彼ら自身の文化を創りあげていきます。ことに3歳頃からは、遊びの中で子どもの成長の各期に応じた子ども同士による育ち合いを高めあっていくのです。
 したがって、子どもたちの健やかな育ちを保障することは、子どもたちが思う存分遊ぶことができる環境を用意するということになります。もちろん、いつでも大人たちの手がさしのべられる用意も重要です。子どもたち同士はもちろん、子どもと親たち、親たち同士、そして地域のさまざまな人との遊びやふれあいの場が用意されることは、分断されつつある地域の人たちの心身を活性化し、地域社会の連帯をも創りだす契機になるのではないでしょうか。



 乳幼児が初めて接する他者は、母親や父親あるいはそれと同等の保護者です。
これらの人たちの手によって、小さな子どもたちはようやく今日一日の生命が 保障されるのです。また、これらの人たちとふれあうことを通して、他者存在 の意味、他者と自分の関係づくりを学習していくのです。したがって、人としての成長など育ちを決定づけるもっとも原初的で重要な環境が家庭であるといえます。
 しかしながら近年、社会の複雑化、技術・情報の高度化と多様化あるいは経済政策の低迷などにともない、大人たちの不安やストレスは次第に増大する傾向にあり、家庭は子どもの育ちにとって必ずしも良質の環境ではなくなってきています。加えて核家族化は若い親たちの子育て・育児を社会から隔離しつつあります。
 その結果、子どもの育ちの道筋が忘れられ、子育ての智恵にふれる機会もなく、過保護や過干渉そして放任、虐待など子育てや教育力の低下となって顕在化してきています。当然この影響は子どもたちの心とからだに直接反映することになっていきます。
 育児や子育ては、まずそれにかかわる親や身近な大人たちが心身ともに安定 していることが大切と思われます。そして、それを少しでも支える「力」が地 域社会ということになります。子どもは親に属するものであると同時に未来社 会を築いてゆく「私たち」であるともいえます。
 これまでの親たちが地域社会の先輩たちの励ましや助言に支えられて子育てをしてきたように、若い親たちを支えることができるのは新しい価値観にもとづく地域の人たちであり、またそれを可能にする行政による優しさのシステム提供といえます。
 また一方では、従来どおり親たちが地域とふれることができれば、小さな子どもたちはより自然に地域の人たちにふれることになります。子どもたちの視野の中にさまざまな違いをもった人たちが直接・間接にふれあうことは、自分をも含めた他者の許容的感性を育てることになるでしょう。それは21世紀バリアフリー社会の礎ともなります。



 社会・経済構造などの変化を含み込みながら、今日、女性たちの人生観や価 値観は大きく変化しつつあります。自己の能力に挑戦したい、社会との接点を持ちたい、経済的自立を得たいなど、人間としてのしごく当然の希望であり夢であるといえます。それは子どもを産み・育てたいという女性性に根ざした要求と何ら変わらないものです。ただ、現今の状況では子どもを産み・育てることは、あまりに女性だけの負担に偏っているために、責任の重さと不安の大きさに尻込みをしてしまうのです。
 子育ても自己実現も女性にとって当然自然であるという意識が社会に根づくなら、女性たちは多少の不安を乗り越えて子どもを産み・育てることの楽しみや仕事では得られない自分の成長をかけて選択するのではないでしょうか。そのためには女性たちの周りにそのような情報やシステムが温かく整備され、発信されていることです。
 女性・母親の心身が安定し、近隣地域をはじめとした援助や子育てのための豊かな時間と空間が保障されていることを確信したとき、女性たちは肩の力を抜いて自分の人生のなかに子育てを位置づけることができるのです。そのような母親、そして父親に見守られてはじめて子どもは心身ともに健やかに伸びていくことができます。 
 子どもが心身ともに健やかに育つためには、もっとも身近な大人たちの心身がバランスがとれて健全であることが大切なことは言うまでもありません。昨今は、親たちの長時間就労や変則勤務にともない、子どもたちの生活リズムが変容しつつありますが、これらの状況をも視野に入れて、保育所や幼稚園、そして家庭、地域、行政が充分な連携、工夫をする必要があります。
 守口市における幼児の健やかな育ちのために、市は常に子どもの視点に立って、家庭、保育・幼児教育現場、地域社会そして行政間における層の厚いネットワークサービスの提供に配慮する必要があると考えます。

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